税金ひとことアドバイス: 相続財産が明らかにならなくても申告は待ってくれない?

税金ひとことアドバイス: 相続財産が明らかにならなくても申告は待ってくれない?

突然に父親が亡くなったという相談がありました。相談者は、次男で、長男夫婦が父親と一緒に住んでいたということですが、その長男が父親の財産を明らかにしないとのことでした。

 

【さてあなたならどうしますか?】

 

最初から、相続争いの匂いが漂う相談ですが、よくある相談です。

 

亡くなった相談者の親には、どのような財産があるのか、相続税はかかりそうかを問うていくと、父親は相当の資産家で、もちろん相続税の課税対象になるとの回答でした。

 

もめる話はできるだけ避けたいと思い、相談者を体よく追い返そうとしましたが、相手の方が上手でした。一番確かな専門家に相談に来ました。どの人も、信用ができそうもないのでここに来ましたと、先に一本やられてしまいました。また、共通の知人もいた事で、相談にのることにいたしました。

 

相続が発生して、相続税の申告は10か月以内にしなければいけません。本音は、相続税の申告は二の次として、兄に勝手に父親の財産を取られたくないが、その兄が父親の財産を明らかにしないし、自分も長い間、両親とは別居していたから、父親の財産が何処にいくらあるのか皆目見当が付かないといった状況です。

 

さて、あなたならどうしますか?

 

まず①父親の財産の把握の問題

 

次に②遺産相続の問題、さらに
③相続税の申告の問題がある。

 

【相続財産の把握の仕方】

①の父親の財産の把握の問題ですが、財産には土地・建物などの不動産、現金、普通預金・定期預金などの預貯金、株式や国債などの有価証券、亡くなった方が事業などを営んでいれば、その事業に関係した機械設備や器具・備品や売掛金などの事業用資産、家庭内の家具や電化製品などの家庭用財産、生命保険金や貸付金などのその他の財産などがあります。

 

これらの財産を、長期間に及んで同居していなかった次男が全て把握するというのは、至難の業です。

 

最初に父親所有の不動産の把握ですが、不動産の場合は同居していなくても、農地や山林でない限りは、所在地くらいご存知ではないでしょうか。そこで、所在地を住宅地図などに落としこみ、それを持って、不動産の所在地の法務局に行きます。登記簿の番地と住所地の番地と住所地の番地(住居表示番号)とは同一ではないので、公図(土地の境界を示した地図)を閲覧して、父親が所有していた宅地の番地を調べます。この公図は後々のためにコピーを取っておくとよいでしょう。

 

この番地を基に登録簿謄本交付申請書を作成して窓口に提出すれば、父親が所有していた宅地の登録簿謄本を手に入れることができます。登録簿謄本には、所在地・地番・面積および所有者が載っていますから、父親の所有不動産かどうかを確認します。

 

また、不動産の所在地の市町村の固定資産税の窓口に、相続人であることの証明書(戸籍謄本など)を持参して「名寄帳」の交付申請を行えば、父親の不動産は把握することができます。

 

②次に、不動産以外の現金、預貯金や有価証券等の把握ですが、銀行に相続人であることの証明書(戸籍謄本など)を持参すれば、父親の預金は開示してくれます。また、銀行は、お父さんが死亡されたことを把握した時には、お父さんの預金口座を閉鎖(入出金はできなく)します。

 

銀行がお父さんの預金の内容を明らかにするケースでは、相続人全員の承諾が必要になります。
なぜ、銀行は預金口座を閉鎖するのかというと、銀行が相続人間の相続争いに巻き込まれないための予防です。口座名義人には複数の相続人がいるのに、一人の相続人が預金を勝手に引き出して隠しなどしたら、他の相続人は怒りますね。

 

各銀行が申請書を準備していますから、相続人全員が申請書の記載要領に従って記載して、署名、捺印をし、銀行が提出を求める戸籍謄本などを添付すればお父さんの預金閉鎖も解除してくれますし、預金の内容も残高証明書の交付を申請すれば発行してくれます。

 

しかしながら、お父さんの財産の内容を明らかにしないお兄さんが、銀行への申請に協力するとは考えられませんから、これも難しいと言わざるを得ません。

 

しかし、銀行が預金の閉鎖を解除するのには、相続人全員の了解が必要ですから、いずれお兄さんもそのことを理解して、他の相続人に打診があるはずですから、お兄さんにお父さんの遺産の内容を明らかにしてもらって、まず、常識的な遺産分割をする方向に、話を切り出すのは、その時がチャンスだと言えます。

 

いずれにしても、こういう状況になりますと、遺産分割協議はすんなりとは進みません。
こういう相続税の申告期限が迫ってきたのに、未だ兄から何の連絡もないという案件は何件もありましたね。

 

【相続税の申告の仕方】

そこで、相続税の申告の問題になりますが、こういうケース、兄が財産の内容を明らかにしないとか揉めているとかのいろいろな理由があったとしても、税務署は期限延長は認めてくれませんから、相続開始の日から10か月以内に申告書を提出しなければいけませんね。

 

では、どのように申告するのでしょうか?

 

預金の額などわからないものは仕方がないので、判明している範囲で申告するしかありません。
相続税の申告書を提出しなければ無申告ということになりますので、とりあえずは判明している財産で申告しておくことです。

 

こういう場合は、相続人が各々別々に違う内容のものが税務署に提出されます。

 

【相続税がかかるようなら税務署が相続財産を調べてくれる】

税務署は、どちらの申告内容が正しいのか、はたまたどちらも正しくないのかを調査します。もちろん、銀行や証券会社の取引内容も調べます。正しい金額の相続税を納めていただくために、申告された財産以外に申告から漏れている財産はないかを必死になって探します。またそれが税務職員の仕事だからです。

 

最終的には、解明した財産内容を相続人に示して、この財産が申告から漏れていますので、修正申告して下さいというように、最終的には他の相続人もお父さんの財産を知ることになります。

 

しかしながら、税務署の調査は一周忌を過ぎた後くらいから優先度の高い案件から順番に始めますから、1年以上は悶々とした日々を送ることになるでしょうね。

 

一方、相続税がかからないような案件ですと、調査の必要がありません(税金になりません)から、当然タッチしません。

従って、税務署の調査によって、被相続人の財産が明らかになるということもありませんね。

 

次のチャンスは、銀行の預金閉鎖の解除の申請の時か不動産の名義変更登記の時しかありません。お兄さんが接触してくるでしょうから、その時にしっかり交渉するしかないわけです。